2021/01/31

今一生『子ども虐待は、なくせる』 (日本評論社、2020年11月)

『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media編、dZero出版、2017年10月)の出版から3年が経ちました。100人の虐待サバイバーが書いた親への手紙を集めた本です。私の手紙(89:灰ねこ「あんたは変わらない」)も載せていただきました。

 Create Media は、作家である今一生さんの編集者名義です。今さんは30年以上にわたって虐待サバイバーの取材や虐待防止の活動を続けておられます。毎週金曜夜に配信しているYouTubeでも積極的に子ども虐待について触れ、ここ数年はサバイバー自らの手による虐待防止の市民イベント開催を仕掛けています。

 その今さんが、子ども虐待について、これまで取材し、話されていることをまとめた本が出ました。それが表題の『子ども虐待は、なくせる』 (日本評論社、2020年11月)です。

 今さんの話の特徴は、当事者を直接取材した経験から、子ども(虐待)に関する公的データや法制度を分析している点です。

 代表的な例としては虐待相談件数の爆発的な増加についてです。 厚労省は全国の児相に寄せられた児童虐待相談件数を発表しています。1999(平成2)年度に1,102件だった相談件数は、2019(令和元)年度は193,780件です。30年で約200倍です。

 皆さんはこの数字の膨らみをどう見ますか? 児相が児童虐待相談を受け付けるうようになったのが1989(平成2)年、児童虐待防止法の施行は1999(平成12)年です。行政は防止対策をやっておりました。しかし、相談件数は一度たりとも前年度を下回ることもなく今まで増加を続けています。

 児相の現場は大変な激務です。児童福祉司1人あたりが受持つ虐待相談件数も増加を続け、2019年度には1人あたり50.8件にもなります。児相の仕事は虐待対応だけではありません。とても手が回らないでしょう。そのほか、子ども虐待の啓発や社会的認知が進んで件数が増加しているという見方も可能です。親権があまりにも強くて、子どもたちを満足に保護できないという現実もあるでしょう。

 しかし、当事者(虐待サバイバー)から見れば、これらは全て言い訳にしか聞こえないのです。子ども虐待の被害は深刻です。虐待で殺される子どもは年間350人にのぼると言われています。(小児科医学会推計)死なずとも、血まみれになるまで殴られる、食事を取れない、虫を食わされる、冬に裸で外に放置される、風呂に入れない、病気や怪我でも医者に行けない、自分の意思を全て否定される、毎日実父にレイプされる、という例がたくさんあります。虐待は起こればもう取り返しがつきません。虐待の傷は、癒え難い傷となって、子どもの一生のあいだ影響を与え続けるからです。 

日本の児童福祉行政は、30年間にわたって施策を続けてきたが、子ども虐待を防げなかった(あるいは減らすことすらできなかった。)のです。全く結果を出せなかったのです。当事者は、いわば日本の虐待防止政策の失敗が生み出した犠牲者でもあります。当事者としては納得がいくわけありません。(ちなみに私も当事者ですが、怒りを通り越して呆れてます。最近は相談件数が発表されるたびに爆笑してます。)

今さんは当事者とじかに接してきました。だから当事者の目線でデータを読みます。行政(権力者)にとって都合の良い解釈はしません。『子ども虐待は、なくせる』から抜粋して引用しましょう。

---30年もの長きにわたって結果を出せない人たちに制度設計を任せ続ければ、子どもは今後も虐待され続けます。彼らは彼ら自身の失敗を認め、長い失敗期間に親から傷つけられ、殺されてきた子どもたちに心から謝り、潔く引退する頃合いでしょう。なのに、官僚も学者や専門家も、自らの仕事の失敗を認めようとしません。それどころか、娘を性的に虐待した父親が地裁で無罪になる判決が相次いでいます。そんな社会は子どもにとって恐ろしい場所です。 私は、虐待防止策の方針転換の必要性を痛切に感じています。---

この30年間、日本の児童福祉行政は、虐待防止政策として何をしてきたでしょうか。大きく言って、①虐待防止の啓発、②児相の機能強化、これだけだと思います。この方針で30年間、相談件数を一度も減らせませんでした。ならば、今さんのいう通り、方針転換が必要です。第3章以降、これからの方針が書かれていますので、皆さんも読んでみてください。虐待サバイバーの私もかなり共感できる施策ばかりです。

非常に内容の濃い本だと思います。虐待防止に関心のある人だけでなく、今虐待を受けている子どもが読んでも役に立つ情報がいっぱいです。お財布に余裕がある人はぜひ購入して読んでみてください。 お金がない人は、公立図書館でリクエストしてみてください。結構買ってくれるものですよ。水戸市に住んでる人は西部図書館にどうぞ!

※ちなみに今さんのブログはこちら


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